
潰瘍性大腸炎
潰瘍性大腸炎
潰瘍性大腸炎は、大腸の粘膜に慢性的な炎症が生じる疾患で、炎症性腸疾患(IBD)に分類される病気の一つです。炎症は粘膜に限局し、びらんや潰瘍といった病変を形成します。一般的に直腸から炎症が始まり、口側(大腸の上部)へと連続的に広がっていく特徴があります。
典型的な症状としては、下痢、血便、腹痛などが繰り返し起こり、発症と寛解(症状が落ち着いた状態)を周期的に繰り返します。若年層から中年層にかけての発症が多い傾向にありますが、年齢に関係なく高齢者や小児でも発症することがあります。日本では厚生労働省から「指定難病」に指定されており、患者数は増加傾向にあります。
発症の明確な原因は解明されていませんが、遺伝的要因、免疫の異常、腸内細菌のバランスの乱れ、ストレスや環境要因などが複雑に関与していると考えられています。適切な治療と経過観察により、症状のコントロールが可能であり、多くの方が日常生活を維持しながら病気と向き合っています。早期発見と早期治療が、生活の質(QOL)の維持や合併症の予防に大きく貢献します。疑われる症状や不安がある場合は、お気軽に受診ください。
潰瘍性大腸炎は、炎症の範囲や重症度によっていくつかのタイプに分類されます。炎症は大腸の粘膜に限局し、粘膜表層から粘膜下層までにとどまるのが一般的です。
症状の強さにより、「軽症」「中等症」「重症」「劇症」の4つに分類され、治療の選択にも影響します。
また、炎症の広がり方によって、以下の3つのタイプに分類されます。
直腸炎型
炎症が直腸のみに限局している
左側大腸炎型
直腸から下行結腸までに炎症が及んでいる
全大腸炎型
大腸全体に炎症が広がっている
炎症の範囲が広がるほど、症状は重くなりやすく、合併症のリスクも高まります。発症年齢のピークは、男性で20〜24歳、女性で25〜29歳とされていますが、どの年齢層でも発症の可能性はあります。
大多数の患者さんは軽症から中等症に該当し、再燃と寛解を繰り返す慢性的な経過をたどります。日々の体調や治療状況を正確に把握し、長期的なコントロールを意識することが重要です。
潰瘍性大腸炎の代表的な症状は、腹痛、下痢、そして血便です。特に下痢は一日に何度も起こることがあり、粘液や血液を伴うこともあります。これらの症状が日常生活に支障を来すこともしばしばです。
症状が進行すると、発熱や貧血、全身の倦怠感など、全身的な症状を伴うこともあります。また、炎症の持続により栄養の吸収が妨げられることで体重減少が起こりやすくなり、特に小児では成長障害の原因にもなります。
さらに、関節の痛みや皮膚、眼の症状、アフタ性口内炎、結節性紅斑、肝胆道系障害など、消化器以外にも影響が現れる「腸管外症状」と呼ばれる症状が出ることもあります。
問診で、便の状態(下痢の回数や血便の頻度)、腹痛の程度、発熱などの症状について確認します。その後、便検査と血液検査により、ほかの感染症がないことを確認したうえで、血便の有無、貧血や炎症の有無、栄養状態などを確認します。また、解熱鎮痛薬などでもIBDに似た腸炎が起こることがあるため、服用しているお薬について確認します。
診断は、大腸内視鏡検査によって炎症の状態や範囲を調べます。潰瘍性大腸炎の内視鏡像では、大腸粘膜に炎症が起こることで、びらんや潰瘍が認められます。内視鏡検査時に粘膜の一部を採取して病理検査(採取した組織を顕微鏡でより詳しく観察する検査)を行ったり、腸内のガスの状態を調べるため腹部エックス線検査を行ったりすることもあります。
潰瘍性大腸炎の治療は、病状に応じて段階的に行われます。治療の主な目的は、炎症を抑えて症状を和らげ、寛解状態をできるだけ長く維持することです。
治療の中心となるのは薬物療法で、以下のような薬剤が用いられます。
5-アミノサリチル酸(5-ASA)製剤
腸の炎症を抑える基本薬です。軽症〜中等症の患者に多く使用され、寛解維持にも有効です。
ステロイド薬
5-ASA製剤では十分な効果が得られない中等症〜重症の炎症に使用されます。ただし、長期使用による副作用に注意が必要です。
免疫調節薬
ステロイドが効かない場合や再燃を繰り返す場合に使用され、免疫の過剰反応を抑制します。
生物学的製剤(抗TNF-α抗体など)
難治性または重症例に使用される新しい治療法で、炎症を引き起こす特定の物質をターゲットにして症状を抑えます。
治療効果を最大限に引き出すには、症状が改善しても薬の服用を継続し、医師の指導のもとで治療を継続することが重要です。
ステロイドなどの薬剤で症状が十分に改善しない場合には、血液から炎症に関与する白血球などを取り除く「血球成分除去療法」が選択されることもあります。副作用が少なく、難治性の潰瘍性大腸炎に対して有効とされています。
薬物治療で十分な効果が得られない場合や、重篤な合併症(大量出血、穿孔、がん化など)が認められた場合には、外科手術が必要になることがあります。手術により病変部を切除することで、根本的な治療につながるケースもあります。
潰瘍性大腸炎は、慢性的に経過する疾患ですが、早期発見と適切な治療により、症状をコントロールすることが可能です。発症当初は、「ただの下痢だろう」「疲れているせいだ」と思って放置してしまうケースも少なくありません。しかし、症状が続く場合や血便が見られる場合には、自己判断せず早めに消化器内科など専門の医療機関を受診することが大切です。
当院では、潰瘍性大腸炎の早期診断と適切な治療を通じて、患者さんが安心して日常生活を送れるようサポートしております。食生活の指導やストレス管理のアドバイスも行いながら、再燃の予防や生活の質の向上を目指します。
「気になる症状がある」「以前からおなかの調子がすぐれない」といった方は、ぜひ一度ご相談ください。病気と向き合いながらも、自分らしい日常を取り戻せるよう、医療の立場からしっかりとサポートさせていただきます。
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